7月12日、ヤマハから新しいボーカロイドソフトウェア『VOCALOID5』が発売されました。
2004年に初めてボーカロイドが発売されてから今日に至るまで何種類ものボーカロイドが発売されてきましたが、今回発売された『VOCALOID5』のキャラクターは今までと少し方向性が異なります。
はっきり言って全く個性がないのだ。良い意味で無個性。
これは一体どういうことなのか。
今回は、なぜ『VOCALOID5』から没個性へと舵を切ったのか、今後「ボーカロイド」というカテゴリーにどのような影響を与えるのか考察したいと思います。
今までのボーカロイド
説明するまでもないと思いますが、ボーカロイドの代名詞ともいえるほど有名なのは2007年8月31日に発売された「初音ミク」です。
数あるボカロキャラの中でもボーカロイドの存在を世に知らしめるのに最も貢献し、今もなお絶大な人気を誇るボカロ界の大御所です。
緑色のツインテールの髪に、近未来的な衣装を身にまとった可愛い女の子をモチーフにした「バーチャルアイドル」というコンセプトで開発されました。
今までの「ボーカロイド」は、「初音ミク」のように、コミカルに描いたキャラクターに特徴的な髪型・服装・イメージカラーといった強い個性を持たせることによって実在しない架空の歌い手に存在感を与えてきました。
「初音ミク」以外の今までに発売されてきた代表的なボーカロイドには、次のようなものがあります。
↓「鏡音リン」・「鏡音レン」
↓「IA -ARIA ON THE PLANETES-」
↓「結月ゆかり」
新しいボーカロイド
新しく出た『VOCALOID5』のスタンダード版にはAmy、Chris、Kaori、Kenの日英男女4人のボイスバンクが同梱されています。
4人のキャラクターイメージはこちらです↓
いや、めっちゃ平凡やん(笑)
どこにでもいそうな大学生といった感じ。
アメリカの大学に留学中の日本人留学生と外国人のクラスメイトという設定で胡散臭い英会話教室の教材に出てきそうです。
全く華がない。完全にモブキャラ。
ホラー映画の序盤で「ちょっと様子見に行ってくる」と言って一番先にお亡くなりになりそうな方々である。
初音ミクのような圧倒的な主役級オーラは微塵も感じられません。
VOCALOID5の歌声
『VOCALOID5』の歌声については、まずは上記の公式HPの動画をご覧ください。
もうこれほぼ人間の歌声じゃないですか?
ベタ打ちでほぼ何もせずに神調教の歌声が出来上がるそうです。
しかも『VOCALOID5』のエディターでは同梱されているモブキャラ4人 実力派シンガーAmy、Chris、Kaori、Kenの4人の歌声のみならず、VOCALOID3 / 4世代のVOICEBANKもそのまま利用可能できるため、初音ミクなどの従来のボーカロイドキャラクターの歌声も調教することができます。
これがあればまだ経験の浅い初心者DTMerでも人間と区別のつかないリアルな歌声を作ることができそうです。
一方で、従来のちょっと機械的で人間の声とは少し違う「ボカロらしさ」は失われることになるかもしれません。
キャラクターの方向性を変えた理由の考察
今までコミカルでアニメチックなキャラクターを押し出してきたのに、なぜ今回から方向性を変え没個性的なキャラクターを登場させたのか。これには、3つの理由が考えられます。
1つ目は、もうブランディングの必要がないほど「ボーカロイド」の存在が十分世間に知れ渡ったことです。
今までは、実在しない歌い手のキャラクター像に強い個性を持たせることによって「ボーカロイド」というものの存在を知ってもらう必要がありましたが、登場から10年以上経った現在では多くの人が「ボーカロイド」というものの存在を知っているようになり、わざわざ強い個性を持たせる必要がなくなったことが考えられます。
2つ目は、歌声がかつてないほどにリアルになったことです。
歌声が限りなく人間に近づいたのに、その歌い手のイメージ像が現実とかけ離れたキャラクターだったら説得力に欠けるため、現実世界で身近にいそうな想像しやすい没個性的なキャラクターにしたと考えられます。
3つ目は、ボカロ音楽に新たなファンを取り込むためです。
今まで「ボーカロイド」はコミカルでアニメチックなキャラクターで売り出してきたため、「初音ミク」などを何かのアニメに登場するキャラクターだと思っていて、ボカロ曲をアニソンか何かだと思って聴かず嫌いをしている人も今だに多いです。今回のキャラクターは、「ボーカロイド」の今までのイメージを払拭して、新たなファンを取り込む狙いがあるのかもしれません。
音楽のジャンルから「ボーカロイド」が消える
「ボーカロイド」は今や「J-POP」や「ROCK」、「HIP HOP」などと並ぶ音楽のジャンルを示す用語にまでなりました。
音楽のジャンルとしての「ボーカロイド」といえば、ROCKな曲調であろうとJazzyな曲調であろうと関係なく、原曲にボーカロイドが使われていれば「ボーカロイド」というジャンルにカテゴライズされていました。
その前提として「初音ミクや鏡音リンちゃんのようなキャラクターが歌うちょっと機械的なボカロらしさのある歌声の曲」という音楽的特徴があります。
しかし、ボーカロイドの歌声が人間とほとんど区別がつかないようになって「ボカロらしさ」がなくなり、今後Amy、Chris、Kaori、Kenの4人のような没個性的なキャラクターが広く浸透していったら、「ボーカロイド」の音楽的特徴はなくなることになります。
そうなった場合、「ボーカロイド」という音楽のジャンルはなくなり、今までは「ボーカロイドというジャンルの中のロックっぽい曲」というカテゴリーだったのが「ロックというジャンルの中のボーカロイドを使った曲」というカテゴリーに変わってくるかもしれません。
つまり、それだけ『VOCALOID5』は、人間の歌声とボーカロイドの歌声の差を縮めてくれる可能性を秘めているといえるのです。